ぬすっととお地蔵さん(岩壺)

 
むかしあるところに、ひとりのぬすっとがおった。ある晩、人の家へどろぼ

うにはいって、ぬすみだしてきた金を、村のお寺のこんもりしげった森のな

かにある、お地蔵さんのところへかくした。  かくしてから、ひょいとお地蔵さ

んの顔をみると、いつもは、にこにこしたやさしい顔をしているのに、おそろ

しい顔をして、ぬすっとをにらみつけていた。  ぬすっとはびっくりして、それ

でもおどかすように、  「だれにも、かくしたことをしゃべるなよ。」と、いった。

 すると、お地蔵さんは、  「わしはしゃべらんが、お前こそしゃべるなよ。」と、

いった。  ものなどいうはずのない、お地蔵さんのこえが、たしかにはっきりとき

こえてきたので、ぬすっとは気味がわるくなり、いそいでその場をたちさった。  

 家へかえってねたが、お地蔵さんのことが気になって、どうしてもねむられな

かった。  とうとう一晩まんじりともしないで、夜のあけるのをまつと、いそいで

ぬすんだ家へいって、自分のしたことを白状した。  なんだか、そうしないでは

いられなかったのである。  そしてそこの家の人とつれだって、金のかくしてお

いたお地蔵さんのところへきて、そっとお地蔵さんの顔をみると、お地蔵さんは、

いつものように、にこにこしたやさしい顔をしていたので、ぬすっとはほっと安心し

た。  そんなことがあってからぬすっとは、ぴたりとぬすっとをやめて、とてもまじ

めな人間になったということである。